日本環境会議(JEC)は2006年3月2日、四日市市の環境再生の[政策提言]を行いましたが、その趣旨を広く市民に知ってもらうことと、周辺地域で廃棄物問題に取り組んでいる人たちの報告を聞き、廃棄物問題についての議論を深めることを目的にした「四日市の廃棄物問題への政策提言」シンポジウムが3月19日午後1時半から、四日市市総合会館で開かれました。
写真:約40人の市民たちが各報告に熱心に耳を傾けた
JECは、2年前に四日市環境再生まちづくりプラン検討委員会(代表:宮本憲一JEC代表理事)を立ち上げ、昨年10月、四日市の廃棄物問題を検討するため委員会のなかに廃棄物問題ワーキンググループ(座長:畑明郎大阪市立大学大学院教授)をつくり、シンポジウムを開催するとともに、政策提言のまとめの作業を進めてきました。この結果、3月2日に県知事や市長に別項のような[政策提言]を行いました。
この日のシンポジウムには市民ら約40人が参加しました。三重テレビ制作の『失墜・環境先進県−フェロシルト問題を探る』のビデオが上映された後、「石原産業のアイアンクレイに対する調査など(伊藤三男・四日市再生「公害再市民塾」)、「フェロシルト―偽りのリサイクル商品― 岐阜からの報告」(兼松秀代・放射能のゴミはいらない! 市民ネット・岐阜代表)、「岐阜市椿洞産廃不法投棄事件」(松井英介・岐阜環境医学研究所長)、「四日市ガス化溶融炉問題」(米屋倍夫・元化学会社技術担当役員)の報告が行われ、まとめとして畑明郎JEC理事(大阪市立大学大学院教授)が「四日市の廃棄物問題への政策提言」について報告しました。
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伊藤三男さん |
兼松秀代さん |
松井英介さん |
米屋倍夫さん |
途中、来日中のアメリカの著名な放射線物理学者のE.J.スターングラス博士と地質学者のR.モレ博士が飛び入りで参加し、アメリカにおける核実験による死の灰の影響や原発周辺でのガンの発生率の高さなどについて短いコメントを発表しました。
写真:スターングラス博士
◆畑JEC理事◆
“環境県・三重”の大失態目に余る。四日市市も企業も同罪だ
畑明郎JEC理事の報告「四日市市の廃棄物問題への政策提言」の概要は次の通りです。
まず、総括的に四日市市の廃棄物問題としてどういうことがあるかということを申し上げますと―
・日本最大の大矢知産廃不法投棄問題
・石原産業のフェロシルト投棄問題
・三重県の四日市ガス化溶融炉建設問題
・その他産廃処分場不法投棄問題など
―があげられます。
写真:行政、企業の責任を鋭く指摘する畑さん
これらの問題をブレークダウンしますと、まずガス化溶融炉建設問題では必要理由であったダイオキシン対策にも寄与していないのに、80億円という県財政を投入していることがまずあげられます。
次に、大矢知産廃不法投棄問題では許可済みの部分とそうでない部分があるとされていますが、実は許可済み部分にも何が埋められているか分からないというかなり“危ない状況”であるといわざるをえません。表層部分は草木に覆われていて、一見廃棄物には見えないのですが、下のほうにプラスチック類がはみ出していたり、近づくとぞっとするような状況に遭遇します。
ざっと見ても、鉛とかヒ素とかが含まれていることが考えられ、それらがまた地下水につながっていることも容易に想定できます。
模式横断図:許可済部分(1)の中にも有害物質が埋められている
処分場周辺の地下水や表層水質から環境基準に近いふっ素が検出されており、処分場の影響と考えられます。
大矢知問題についての提言を要約すると、以下の5項目になります。
1. 処分場周辺の徹底した環境汚染調査と、当該データの情報公開。
2. 投棄廃棄物の徹底した調査に基づく違法・不法投棄分の全量撤去。
3. 行為者の川越建材と排出事業者への厳格な責任追及。
4. 過去の三重県の対応検証と今後の改善策。
5. 1〜4の過程で四日市市・周辺住民への説明責任を果たすとともに、十分な協議を行う。
次に、石原産業のフェロシルト問題に話しを移しますが、この問題、アイアンクレイとフェロシルトという二つのカタカナ名が出てきますが、実はこの二つは元はチタン鉱石で、フェロシルトは石原産業が「土壌埋め戻し材として有用化している」と偽っていたのに過ぎず、片やアイアンクレイは「廃液処理後の産業廃棄物」で、結局は同根の有害物質であるわけです。
こういうシロモノを三重県はリサイクル品として認定のお墨付きを与えていたわけで、なにをかいわんやです。三重県は北川前知事時代“環境先進県”を標榜していたが、この一連の事態は大失態といわざるを得ません。
ところで、石原産業という会社の歴史を調べると、1967年に四日市公害訴訟の被告の一人であったり、1969年に四日市港へ廃硫酸を垂れ流し、海上保安部から摘発されたりしたことはよく知られていますが、戦前も1916年に前身の会社が大阪アルカリ事件で大審院敗訴(1916年)したりしており、環境破壊とは密接な関係にあることが分かり、そういう企業体質には伝統的なものがあるのかも知れません。
現実に話しを戻しますと、フェロシルトの撤去費用は200億円を越えると見られています。しかし、いくらかかろうとも同社の責任は明確なわけで、文字通り企業責任として計画通り全量撤去することを強く望むところです。
写真:処分場に投棄される回収フェロシルト
フェロシルト投棄問題についての提言をまとめると、次の4項目になります。すなわち―
1. 石原産業は、投棄されたフェロシルトの全量撤去rと自社処理を行うこと。
2. 石原産業が、フェロシルト=アイアンクレイを大量に発生させる硫酸法酸化チタン製造法を廃棄物の少ない塩素法に切り換えること。
3. 三重県は、有害廃棄物の除外、厳しい審査、罰則強化などを含めたリサイクル条例を見直すこと。
4. 回収フェロシルトの三重県三田処分場への投棄は、海洋汚染のおそれがあり、見直すこと。
【注=その後、石原産業の田村藤夫社長は06年5月20日、大阪における記者会見で、8月末メドにしていた撤去は「処分場のメドがつかず、完了時期を明言できない」と言明。また撤去量についても、これまで90万トン超とされていたが、混ざった土を含め総計107万トンに及ぶことと、自らの辞任時期を遅らせることを明らかにした】
そして、最後に、今日取り上げた問題では、いずれも三重県、四日市市の責任は重大です。両者への提言を示して終わります。
1. 三重県は、大矢知産廃処分場不法投棄問題への不作為、フェロシルトのリサイクル品への認定、ガス化溶融炉の失敗、産廃やフェロシルトの不法投棄などの責任を取ること。
2. 四日市市は、廃棄物問題の調査を実施し、調査結果などを市民に情報公開すること。
3. 三重県と四日市市は、行政が設置する学識者の委員会で検討するだけでなく、環境NGOの学識者や住民と協議する場を設けること。
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写真:最後は講師全員が会場からの質問を受けた
=いずれも06年3月19日、四日市市総合会館で |
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