自動車社会へ誘導した国の責任
全国公害弁護団連絡会幹事長の村松昭夫弁護士は、「国の責任の一つは、実行可能な単体規制を行わなかったことであり、もう一つは、自動車数を増大させ、道路混雑を引き起こすような都市計画、都市形成をリードしてきた点です。今のような自動車社会は、国の道路整備五ヵ年計画や、それを支える道路特定財源制度によって誘導され、私たちの暮らしに自動車が入りこんできている」と述べ、国の責任は重いものがあると主張しました。
除本氏は、国の都市計画、都市形成における責任を、被害者救済の財源負担の根拠とする議論は、今後の課題だと述べました。
吉村氏は、「この手の国の責任について、裁判所はまともにとりあわない。どれだけ国が構造的な関わり方をしているのか、磯野先生が研究されている制度創設者の責任もふくめて、国の責任をどう考えるべきか、検討が必要」と述べました。
全国公害弁護団連絡会幹事長の村松昭夫弁護士
自動車ユーザーの責任
「千葉あおぞら連絡会」の伊藤章夫氏からの、「自動車ユーザーの責任を認めるべき」との指摘については、渡邉氏が、「大気汚染の被害を避ける可能性を考えると、自動車ユーザーよりも、技術開発を担うメーカーが鍵を握っている。また、ユーザーといっても、一般の消費者から、運送業者(個人事業から大手まで)と多様なため、一律に扱うことは難しい。一般消費者に責任を問うとなると、車の所有が前提で生活が成り立つ地方の自動車ユーザーについても考慮した検討が必要」と回答しました。
千葉あおぞら連絡会の伊藤章夫氏
汚染や被害者の実態調査を
下関市立大学の下田守教授は、「被害者救済制度が不十分である理由の一つは、汚染や被害の実態が十分に解明されていないから」と指摘し、原因者や加害者が明確になれば、責務も明確になると述べました。「仮に、原因がはっきりしていなくても、汚染なら環境行政、健康被害は厚生行政に責任があるわけで、その点はもっと主張してもいいのでは」とコメントしました。
下関市立大学の下田守教授
実態調査は、各地の患者会などが行っています。「あおぞらプロジェクト大阪」では、被害者の実態調査が行われており、5−6月に調査結果を分析し、7月には政策にまとめる予定だと同団体の中村毅事務局長が報告しました。
「NO2の環境基準緩和によって、大阪の一般局は全て基準をクリアし、自排局でも94%が達成している。しかし、大阪では一万人以上が公害疾患をわずらっていることから汚染が改善されていないことは確かです。」(中村氏)
大阪にも救済制度を設け、健康で安心して暮らせる環境をつくることを目標に活動していると話しました。
東京大気汚染裁判患者会事務局長の石川氏は、「100人の被害者がいれば、100通りの被害がある」と、多様な被害実態があることに触れ、「医療費の補助は最低ラインです。今後も、患者が必要とする救済や補償を求め続けていきます」と述べ、患者救済の運動の継続を訴えました。
あおぞらプロジェクト大阪の中村毅事務局長
ニーズに沿った自由な制度設計で救済を
全国公害弁護団連絡会議顧問の豊田誠弁護士からは、「公健法の改正ではなく、別の制度提案をした理由は」との質問がありました。
吉村氏は、改正が改悪の方向に動く危険性を避けるため、別の制度を提案したと回答しました。
「ワーキンググループが環境省とヒアリングをした際、公健法の、さまざまな問題が浮き彫りになりました。私たちからの指摘に対して、『公健法では、そうした問題を視野に入れていない』と回答される点が多く、こうした状況であれば、公健法の改正ではなく、より現状に沿った制度を、自由に設計をしたほうがいいという結論に至ったわけです。」(吉村氏)
全国公害弁護団連絡会議顧問の豊田誠弁護士
PM2.5の基準設定は今春に発表予定
東京大気汚染訴訟弁護団の西村隆雄弁護士からは、PM2.5の環境基準設定について、最新の情報が報告されました。
「PM2.5の環境基準設定が現在、山場を迎えています。環境省の話から推測すると、おそらく5月に、専門委員会による基準案をまとめ、パブリックコメントにかけて、7−8月に、基準を設定することになるようです。基準の設定を決断したことは歓迎すべきですが、どのような基準になるかが重要です。環境省の今後の対応ですが、日本にPM2.5についてのまともな調査データがないため、WHOやアメリカの基準を参考にすることが予測できます。しかし、日本の状況は他国と違うとの見解から、海外の厳しい基準を採用せず、日本独自の緩い基準を提示するおそれがあります。」
環境省からPM2.5の環境基準が提示されるまでの1〜2か月が勝負だとし、現在、厳しい環境基準が実現するよう、環境省にむけた、PM2.5の団体署名を行っていると報告しました。また、基準が厳しいものになるかどうかは、本シンポジウムのテーマである大気汚染被害者救済制度の実現に大きな影響力があると話しました。
東京大気汚染訴訟弁護団の西村隆雄弁護士
最後に、吉村氏が、今回提案した救済制度は、大気汚染公害の被害全体をとらえた理想的な内容でないことは十分承知した上での提案だと説明し、緊急に救済制度をつくり、これを突破口にしてさらなる展開をしていきたいと語りました。
また、救済制度実現の鍵は、制度の必要性が国民に理解されることが重要だと指摘し、「大学でも、公害は過去のものだと考えている学生が多く、なぜ救済制度が必要なのか、汚染の実態を知ってもらう必要を感じている。研究者だけでなく、運動の課題でもある」と述べました。
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