国の救済制度は、「医療費救済制度」と「被害補償制度」の2本柱で
日本環境会議理事であり、大気汚染被害者救済検討会・提言作成ワーキンググループ座長である吉村良一立命館大学教授は、国が制定すべき、新たな救済制度の基本的な考え方を発表しました。
新救済制度は、被害者の医療費負担を軽減する「医療費救済制度」と、道路沿道の損害賠償を認めた判決を踏まえ、生じた被害を補償する「被害補償制度」の2本柱で構成されます。国の公害被害者救済措置として位置づけ、費用負担については、公害被害に「責任ある関与をしたもの」が費用負担をするべきとし、また、医療費救済制度については、社会保障的な性格をもちあわせたものになっています。
写真:日本環境会議理事の吉村良一教授
医療費救済制度については、対象となる地域を、自動車が集中集積する地域で、地域指定解除が行われた88年以降、大気汚染物質が環境基準を著しく(もしくは相当程度)上回る測定局のある行政区と考えています。「自動車が集中集積する地域」とした理由については、「こうした地域では、国や自治体は、交通規制などが集積を緩和したり、集積しても被害が発生しないような単体規制をする責任があります。 また、自動車メーカーには、低公害車を製造・販売する責任があると考え、対象地域としました」と説明。被害補償制度の指定地域については、これまでの判決の達成点を踏まえ、12時間において、自動車交通、あるいは大型車混入率が一定規模以上の幹線道路の沿道地域としています。
今後は、指定地域の考え方だけでなく、費用負担の按分割合や、燃料供給者や自動車ユーザーの責任の位置づけについても検討していくと述べました。
自動車メーカーを含む「責任ある関与主体」が費用負担を
費用負担の財源について、除本理史東京経済大学教授が説明しました。「救済制度に必要な年間120億円の財政規模について、財源の出所を合わせて提案することで説得力をもつ」とし、費用負担するべき、被害を生じさせた「責任ある関与主体」について説明しました。
「主体が誰であるのかは、簡単な話ではない」と前置きし、国(道路設置管理者、単体規制権限者)、自治体(道路設置管理者、交通規制権限者)、高速道路会社(道路管理者)、自動車メーカーと燃料メーカーなどだが「責任ある関与主体」として考えられると話しました。例えば、自動車一台の走行距離当たりの排ガス排出量は、自動車の性能によって異なります。排出量のコントロールが可能な立場にあるのは、自動車メーカーであり、また、排出量を規制する単体規制権限者です。道路渋滞などの道路状況によって排出量が変動することから、公安委員会や、道路設置管理者も、排ガス汚染については関係する主体として考えられると述べました。ただし、それぞれの責任ある関与の範囲は等分ではなく違いがあることも指摘しました。
「とりわけ自動車メーカーは、国が提示する単体規制の内容について、規制緩和や、開始時期延期などのロビー活動を行い、規制内容に影響を与えてきました。自動車メーカーが単体規制に及ぼす影響は大きい」(除本氏)
写真:日本環境会議の除本理史教授
医療費救済制度については、社会保障的性格があることから公的な負担を加え、その財源として、自動車ユーザーが支払う税を一部充当することが考えられると述べました。2008年度の道路特定財源は5兆円以上あり、100億円程度の水準であれば充当できるとし、「ただし、現在の道路特定財源においては、環境負荷の大きな自動車に、より多くの税をかけるような制度になっていないので、改革の必要はある」と指摘しました。
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