2007 12/05 更新分

ルポ メニューへ
 【寄稿】金沢大学に「宮本文庫」オープン!
宮本憲一さんが金沢大学に寄贈した膨大な研究資料や蔵書が整理され、このほど「宮本文庫」として開設されました。2度にわけて寄贈された点数は数万点、ダンボール500箱に達したという。その貴重な資料・書籍が公開されるのを記念して、開設式と記念シンポジウムが行われました。同大学の「地域経済情報センター」の委員として、開設準備に携わってきました佐無田光さん(金沢大学准教授、JEC理事)が開設までの経過や文庫の内容などについての紹介文を寄稿してくれました。

地元の経済界など地域社会の支援も受け設立
多岐にわたる研究分野 伝統的な分類法適用できず


金沢大学「宮本文庫」の開設
佐無田光

 2007年9月、金沢大学図書館に宮本憲一先生の業績と研究を記念した「宮本文庫」が開設されました。
 文庫開設の経緯を振り返りますと、宮本憲一先生が大阪市立大学退官の折に、それまでの研究を通じて収集してこられた膨大な研究資料・蔵書を金沢大学にご寄贈くださったのは、1993年の時点になります。これらの資料類は、日本の地方財政、公害問題、地方自治、地域開発などの歴史を知る上で貴重なコレクションになるとして、金沢大学では、通常図書とは別枠の宮本文庫として開設の準備を行ってきました。
写真:鹿島正裕・金沢大学付属図書館館長より感謝状を受ける宮本先生(左)
 宮本先生の寄贈資料は、1994年6月に、第一期搬入分として、段ボール箱400個に資料・書籍類が混在する状態で大学に運び込まれました。次いで2000年3月、宮本先生の立命館大学退官時に、第二期搬入分として、追加で100個の段ボール箱が運び込まれました。書籍だけでも約8000点、これに加えて各種行政資料、新聞、細かな切抜き等が別途数万点にのぼると見られますが、細かい資料類はいまだにきちんと数え切れていない状況です。
 資料は未整理の状態で届いたため、文庫の開設のためには、膨大な資料の分類整理と登録作業が不可欠でしたが、そのための予算が不足していました。そこで、大学予算のほかに、金沢の澁谷学術文化スポーツ振興財団および大和文化財団からの助成を受けて資料整理を行いました。幸いなことに、宮本先生が金沢大学の助手であった時代からのご縁もあって、金沢の地元経済界の中から宮本先生の立ち上げられた研究分野に対する理解と支持を得ることができました。大学の図書・研究予算だけでなく、地域社会の協力を受けて設立したというところに、宮本文庫の特徴の一つがあります。
 予算がついたとはいえ、大きな予算ではなかったために、ごく少人数で地道にこつこつと資料の整理を進めました。宮本先生の学際的な研究活動は、実に多岐の領域に渡っているため、伝統的な図書分類方法がそのままでは通用せず、当時は類似の先行事例もほとんどなかったので、担当者は宮本先生の研究分野を学びながら、独自の資料分類を工夫せざるを得なかったと聞いています。また、文庫受け入れを主導されていた故・小林昭先生が志半ばでお亡くなりになられ、作業が一時期中断していた時期もありました。
 そのようなことで、文庫開設までにはかなりの時間を要してしまったのですが、このほど、寄贈資料類のうち図書についてはようやく公開準備が整い、宮本文庫の開設に至った次第です。宮本文庫として公開されているのは、これまでに宮本先生からご寄贈いただいた約8000点の図書のうち、既に金沢大学図書館に保管されているものなどを除いた3872点(2007年8月31日現在)です。ご自身の著書に加え、公害・環境・地域に関する書籍、卒業研究で使われたウィリアム・ぺティの原書など英語・ロシア語等による外国語文献も含まれています。
 9月30日には、宮本文庫開設記念シンポジウム「共同社会条件の再生と維持可能な社会への課題」が金沢市内で開催されました。シンポジウムでは、まず、宮本文庫開設式として、助成をいただいた澁谷学術文化スポーツ振興財団の澁谷亮治・澁谷工業株式会社代表取締役会長から祝辞を頂戴したのち、鹿島正裕・金沢大学付属図書館館長より宮本先生に感謝状が手渡されました。

第2部では、宮本先生の記念講演「維持可能な社会の政治経済学」、第3部では、宮本先生の薫陶を受けた各分野6人の研究者によるパネルディスカッションが行われました。シンポジウムの参加者は110名。宮本先生の教え子や金沢市内・石川県内の市民・行政職員・経営者・学生等の参加のほかに、北陸の富山、福井、さらには東京、広島、四日市、静岡、鳥取などから遠路はるばる金沢まで来ていただいた参加者もありました。
写真:各分野6人の研究者によるパネルディスカッション

 ところで、宮本文庫はこれで完成ではありません。実は、宮本先生は研究活動を継続しておられる現役の研究者ですので、まだお手元に置いておかれている主要な資料・蔵書があります。金沢大学では今後も順次、図書を受け入れ、文庫を充実させていく予定です。
 さらに、未公開のままの膨大な収集資料類があります。その内容は、国内外各地の現地調査で得た資料が中心ですが、四日市、水俣等の全国各地の公害関連資料、沖縄問題、神戸の震災、イタリア、ポーランドなどの海外都市資料、さらには北米イヌイットの新聞など、宮本先生の研究対象・関心を反映した幅広い領域に渡っています。さらに、行政への意見書、公害関係条例の下敷きになった文書、公害裁判の際の証拠書類、市民団体の部内資料や会報など、歴史を語る貴重な資料が含まれています。これらの資料の整理は大方済んでいるのですが、公開・閲覧できる形にはなっていません。そこで、すいれん舎から刊行された「宇井純収集公害問題資料」と同様に、「宮本憲一収集資料集」として近年中に出版できるようにする予定でいます。刊行に至った際には、ぜひ各大学でも所収をご検討いただけますようよろしくお願いいたします。
(2007年11月25日記)

ルポ メニューへ

JEC 日本環境会議