国際シンポジウム「日本の大気汚染を考える」が3月27日、東京の内幸町ホールで開催され、約150人が参加しました。世界保健機関(WHO)欧州環境と健康センター・ボン事務所Regional
Adviserのミーハル・クリザノスキ博士らが報告をし、ディーゼル車などの排ガスに含まれる微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準を日本に策定する必要性を訴えました。シンポジウムの主催は、日本環境会議(JEC)と、岡山大学大学院教育改革支援プログラムでした。
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WHOは2005年に、大気汚染ガイドラインを改定し、PM2.5の年間目標値を、10µg/m3としています。岡山大学の津田敏秀教授は、クリザノスキ氏について、各国の異なる大気汚染の現状を考慮しながら、ガイドラインを策定した中心人物だと紹介しました。
欧州で開催される大気汚染会議に参加してきた津田氏は、「研究者、行政官だけでなく、自動車メーカーや、患者団体、支援NGOを交えた議論が重ねられ、合意形成が行われている」と同会議について紹介し、過去35年間、大気汚染基準の改定も議論もなかった日本との違いを指摘しました。 |
写真:岡山大学の土居弘幸教授(左)と、津田敏彦教授
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クリザノスキ氏は、大気汚染ガイドラインについて、「簡単に達成できる基準値ではない」と指摘しつつも、各国の状況に合わせた暫定目標を定め、徐々に大気汚染を減らす努力を続けることの重要性を訴えました。大気汚染への曝露を減らすことで、健康被害が減少したアイルランドや米国の研究成果を基に、数値を決定したと説明しました。 |
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写真:WHO欧州環境と健康センター・ボン事務所Regional Adviserのミーハル・クリザノスキ博士
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WHO西太平洋地域事務局Regional Adviserの小川尚氏は、アジア太平洋地域に特化した大気汚染由来の疾病について報告しました。大気汚染による健康被害や死亡の原因については、貧しい農村では、木炭や石炭による屋内煙が、都市部では、自動車排ガスによる大気汚染が問題だと指摘。アジア太平洋地域では、シンガポールとオーストラリアの2カ国だけが、PM2.5の環境基準を設けていると説明しました。 |
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写真:WHO西太平洋西太平洋地域事務局Regional Adviserの小川尚氏
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東京大気汚染公害裁判原告団の南雲芳夫弁護士からは、日本の現状について説明がありました。規制対象になっているのは、PM2.5より粒径の大きいPM10(浮遊粒子状物質の粒径が10µ以下)で、PM2.5については未規制であるため、早期の基準設定を訴えました。 |
写真:東京大気汚染公害裁判原告団の南雲芳夫弁護士
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なお、約1年にわたり、大気中におけるPM2.5に係る健康影響評価について検討してきた環境省の「微小粒子状物質健康影響評価検討会」(座長:内山巌雄 京都大学大学院工学研究科教授)は4月4日、「健康に一定の影響を与えていることは、疫学知見ならびに毒性知見から支持される」と報告しています。 |
淡路剛久JEC理事長は、これまでの大気汚染被害者救済制度の在り方について報告しました。2000年の尼崎大気汚染公害訴訟判決では、PM2.5による大気汚染の存在が認定されています。「排ガスが呼吸器疾患の原因であることから、自動車メーカーが原因者であることは事実で、メーカーに救済事業の費用負担を求めることは可能」との見解を示しました。さらに、2007年8月の東京大気汚染訴訟における和解で、自動車メーカー7社が12億円の「一時解決金」を拠出することになったことに触れ、これは「原因者負担主義」が一部実現したとも理解できると説明しました。 |
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写真:JEC理事長 淡路剛久教授
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寺西俊一JEC事務局長は、60年代の四日市大気汚染公害の問題に関わった専門家が、その後の日本環境会議を設立した中核メンバーであったという経緯を紹介し、JECが発足時から大気汚染公害とは深い関わりがあったことに触れました。現在、被害者からの要請にもとづき、昨年11月に発足した「大気汚染被害者救済制度検討会」で、日本の大気汚染政策を前進させるべく定期的に研究会を重ねていると報告しました。 |
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写真:JEC事務局長 寺西俊一教授
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会場からは、慢性気管支炎とぜんそくによる苦しみと闘いながら、国の救済制度を求めてきた松光子さんが、ケニアのことわざを紹介し、「公害被害は未だに続いている。この苦しみを孫の世代にまで味あわせたくない」と訴えました。 |
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“地球を大切にしなさい
それはあなたの親から授かったものではありません
あなたの子どもから授かっているものなのです” |
写真:尼崎公害患者の会の松光子さん
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東京大気汚染公害裁判弁護団事務局長の原希世巳弁護士は、シンポジウムを振り返り、PM2.5の環境基準の設定は、もはや世界のすう勢であり、同基準を持たない日本の現状は問題であると指摘し、環境省が早急に基準設定にとりかかる必要があることを再度強調しました。また、世論を盛り上げつつ、国に対して被害者救済制度の確立についても求めてくと述べました。
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写真:東京大気汚染公害裁判弁護団事務局長の原希世巳弁護士
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