APNEC10 台北宣言

 2011年11月20日~21日,台湾・台北市で開催された第10回アジア太平洋NGO環境会議(APNEC-10)には,アジア・太平洋地域23カ国の環境科学や環境法,環境マネジメント等の研究分野そして多くのNGOから,600名を超える参加者が集った。

 今回の企画は,中華民国(台湾)が100周年記念を迎え,APNECが結成20周年を迎える節目の年に行われることとなり,大変意義深いものである。この20年来APNECは,アジア・太平洋地域全体にわたって,NGO・学界・専門家・企業・行政の間の環境問題に関わる議論の重要なプラットフォームの機能を果たしてきたといえよう。

 過去の会議の成功を基礎としながら,APNEC-10は次のことを主張する。

1.「グリーンアクセス」を促進するため,調査研究や情報交換の一体的なネットワークを構築することが不可欠である。すなわちそれは,リオ宣言(1992年)の第10原則,オーフス条約,UNEP(国連環境計画)2010年ガイドラインに沿って,環境問題における情報へのアクセス(知る権利)や司法へのアクセス,アジア・太平洋地域の国々における政策決定に市民が参加・協働することを可能にするための権利を保障することである。

2.気候変動と結びついた異常な天災が地域全体でますます頻発する傾向にあり,測り知れないほどの人的被害や生態系への損害,経済的損失を引き起こしている。気候変動がどんどんと悪化する将来的な可能性をふまえ,APNEC-10参加者は,生物多様性の増大や環境対策技術のような緩和戦略や適応策が,整合的で一体的な方法で追求され,早急に実行されることを求めている。

3.ヒマラヤ山脈の氷河の溶解は,人類とりわけ山麓や低地に住む人々にとって先例のないリスクをもたらす。この問題に取り組む地域を超えた協調行動が緊急に求められている。

4.温室効果ガスの大気中での濃縮が進んでいることや気候変動が加速していること,化石燃料を基本としたエネルギーへの持続的な信頼,石炭・天然ガス・炭層ガスのように整理された化石燃料への大幅な回帰というような影響を考慮に入れると,再生可能エネルギーやエネルギー効率の改善策を採用し,促進することはなおいっそう避けられない事態となっている。

5.原子力を,CO2を排出しない「クリーン」なエネルギーであるとして推進し,それをポスト京都の国際的枠組みにおける緩和策として認知させるよう運動している国々もある。われわれは,他国に原子炉を輸出している国々のこうした提案や動きに深い懸念を表明する。そして,各国政府に核のない地域を確立するよう迫っていく。

6.ここ数年の気候変動の影響力や自然災害・人為災害による惨状について関心が高まっているという認識のもとに,APNECは,サステナビリティ推進にかかわる地域組織(たとえばAPECやADB)だけでなく,国連の関係フォーラムに参加することを視野に入れた登録をめざす。

7.生物多様性条約に調和しながら,生物多様性の保全が国土利用計画としっかり結びつけられておくべきである。NGOは,国家レベル・地域レベルの生物多様性戦略や行動計画に対して,調査や監視の面から常に関与しておく必要がある。

8.アジア・太平洋地域の国々は,持続可能な発展や環境正義の実現を促進するため,市民裁判を含む適切な法的・司法的なシステムを構築すべきである。

9.アジア・太平洋地域の国々は,政策や事業に対する戦略的環境アセスメント(SEA)を含む生態系に配慮したマネジメントのあり方を追求すべきである。

10.アジア・太平洋地域の国々は,海洋空間の区域割を設定したり,海底の自然遺産を含む沿岸域生態系の保全を適切に進める上では,相互に学び,協力すべきである。そのことは,海洋くず・漂積物によって引き起こされる問題を解決するためにも必要である。沿岸域や島々における原住民の文化的な遺産についてもまた,保護すべき対象として注意が向けられる必要がある。

11.ハイテク産業からの公害は,この地域の多くの国々においていまだに深刻な職業病を招き,環境への危害を及ぼす原因となっている。APNECは,こうした公害被害を受けた人々の環境正義を求める闘争を支持し,健康やリスクアセスメントの実現を求める。

12.今回の会議では,アジアにおけるアスベスト問題がとくに深刻な関心事となっていることを確認した。近年,対応策に乗り出している国々もあるが,いまだに膨大な量のアスベストを使用し続けている国もある。それゆえ,今回の会議では,近い将来アスベストのない社会を実現するために,この地域でアスベストの使用を禁止するよう強く主張する。

13.韓国におけるいわゆる「四大河川事業」を含む大規模河川土木事業計画は,「グリーン成長」や「グリーン・ニューディール」のごとく称されるようなものでは決してない。それらはまさにグリーンウォッシングとされる欺瞞であり,持続可能な発展につながるものではない。

14.APNEC-10は,持続可能な将来をいかに構築するかというテーマに関して,この地域の若者同士の対話を進めることの意義を強調したい。そしてキャパシティ・ビルディングや環境教育の機会を拡大しようとなされている関係者の努力をさらに支援していく。

15.環境の危機に関する心理的・精神的な根源についての認識をもとに,われわれはその危機を広く呼びかけ,人類と地球とを分離してとらえる誤解を正す方法を模索することが不可欠であると確認する。


APNEC-10を地元で主催し参加者をもてなしていただいた団体(Society of Wilderness)および台湾の協賛団体に,参加者一同,深い感謝の意を表したい。次回,第11回のAPNECが韓国主催で開催されることを歓迎する。

2011年11月21日
第10回アジア・太平洋NGO環境会議)

 
JEC 日本環境会議