第12回東日本多重災害復興再生政策検討委員会全体会合
 2013年1月25日(金)15:00-17:50 株式会社農林中金総合研究所会議室にて
 第12回の全体会合では、原発事故の損害賠償問題をテーマに、小島延夫氏(弁護士)と秋元理匡氏(弁護士)が報告しました。その後、両氏とフロアとの間で質疑応答・総合討論が行われました。
(文:藤谷岳 写真:石倉研)
報告1:小島延夫氏(弁護士)
「原子力損害賠償紛争解決センターでの解決の実際・状況」
 小島氏は、まず、福島第一原発事故による避難者への賠償を進めていく上で裁判外紛争解決手段が必要となっている理由について、量的限界、訴訟という制度の限界、裁判所の時間的限界があると話しました。そして、多数の案件にすばやく対応できる体制を設けるために設置された原子力損害賠償紛争解決センターの成果と課題について説明しました。これまでの成果としては、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針では不十分であった点を補ってきたこと、立証方法の簡便化につながっていること、仲介委員の協議・勉強会によって質の確保をすることができていることが挙げられました。一方、コミュニティ喪失などの被害を理由とした精神的損害賠償額の増額需要があること、土地・建物の財物損害に対する補償が移転先で代替物件を取得可能な額になっていないこと、放射線量が低いとされた地域の物件が全損扱いされないこと、全国に散らばる自主的避難者への対応にはセンターとしても限界があることなど、多くの課題も提示されました。
原子力損害賠償紛争解決センターが果たす役割と
直面している課題について話す小島氏
 
報告2:秋元理匡氏(弁護士)
「東京電力関係訴訟の動向と課題」
 秋元氏は、被害者から相談を受けて代理人等を務める弁護士としての立場から、東京電力関係の訴訟の動向と課題について話しました。まず、震災以降、被災地および全国の弁護士は、法律相談に加え、被害実態の調査活動を通して既存の法律での解決の可否を検討し、解決できないものについては立法事実として救済策の政策提言を行っていると説明しました。そのなかで、責任の明確化が大きな課題として問われていると主張しました。特に、現在の東京電力による対応が、「加害者による被害者の枠付けと幕引き」という、水俣病事件と類似する構図になっていること、国の責任を明確にし、東電だけでは対応できない非金銭的な被害の救済のための援護策が求められていることが強調されました。そして、金銭的・科学的には説明困難な被害や避難と原発事故との因果関係をどう論じていくのか、等の多くの重要な論点が提示されました。
水俣病事件との類似性に言及しながら
責任の明確化が大きな課題であると主張する秋元氏
 
質疑応答・総合討論
 報告者とフロアとのあいだで、汚染されて使えなくなった農地の土地評価や代替地の取得可能性、損害賠償の対象や範囲、土地・建物に関する賠償の個人と事業者のあいだの格差、国と東電の責任をめぐる裁判所の判断、除染をめぐる賠償の実状と見通しなどについて、活発な議論が展開されました。
 今回の会合では、全体を通して、フローの被害とストックの被害の両者の実態をとらえ、それを金銭的にどこまで賠償できるのか、そもそも、補償や賠償に関わる原理のところから検討していく必要があることが確認されました。長年にわたって公害環境問題に取り組んできたJEC として、次回以降も、被害のとらえ方や補償のあり方についての継続的な議論を行っていくことになりました。

 
JEC 日本環境会議