高雄宣言
−第6回アジア・太平洋NGO環境会議宣言−
アジア・太平洋地域の14ケ国・地域から集った、われわれ300名を超える環境科学、環境法、環境管理の諸分野における専門家、ならびに様々なNGOの代表は,2002年11月1日から4日にかけて、台湾の高雄市で開催された「第6回アジア・太平洋NGO環境会議」に参加し、2日間にわたる討議を通じて、以下のことを確認した。
1.アジア・太平洋地域の全体にわたって、生物多様性が急激な減少傾向を示している。この地域におけるNGOおよび地域コミュニティーは、この脅威を認識し、それへの対応において積極的な役割を果たしている。
2.潮間地帯を含む湿地は、アジア・太平洋地域における最も重要かつ生物生産性の高い生態系の一つであるが、それらは、埋立てと無秩序な開発によって深刻な脅威にさらされている。自然湿地を保存し、破壊された湿地を復元するための緊急な措置が求められている。
3.水域および陸域の生態系の修復は、断片的なやり方で行われているにすぎない。修復をより有効なものに改善し、自然環境に対してさらなる危害を加えることを回避していくために、包括的な取り組みが急務となっている。
4.アジア・太平洋地域における多くの国々で、過去10年間、環境管理のための法規、技術、制度の発展という点で重要な前進がみられたが、それにもかかわらず、従来からの産業公害をめぐる諸問題が依然として発生し続けている。この一つの理由は、問題解決への決意と手だてが欠如していることと並んで、現存の法律や規制が実効性に乏しいという点にある
5.廃棄物のリサイクルや再利用によって引き起こされる危険、とりわけ、国際間や地域間で取引される廃棄物によって引き起こされる危険に対する懸念が高まりつつある。
6.アジア・太平洋地域におけるエネルギー消費は劇的に増加しつつあり、温室効果ガス排出の増大、および酸性降下物の増大をもたらしている。この問題は、グリーン・エネルギーの開発とその実用化への努力の欠如にも起因して、深刻化している。
7.軍事基地、および武力紛争が、環境の破壊を引き起こしている。
8.上記の5、6、7項における諸問題は、ますます国境を越えた性格のものとなってきており、これに対応した取り組みが行われなければならない。
9.環境教育、および、人々の環境意識の向上において、NGOは、指導的かつ決定的に重要な役割を果たしている。またNGOは、環境保全の取り組みに人々が参加することを容易にし、促進する役割も果たしている。台湾におけるコミュニティ・カレッジにみられるように、いくつかの国々では、人々の環境意識を高めるための新しい試みも始まりつつある。
さらに、われわれは、以下のことに合意した。
1. 生物多様性の保全と持続可能な発展は、生物多様性条約の諸条項にのっとり、国土利用計画のなかにしっかりと統合されなければならない。NGOは、各国での生物多様性保全戦略とこれに関連する国土利用計画の実施に引き続き関与していかなければならない。
2. 個々の事業ベースでの環境影響評価という既存のシステムは、市民参加の機会を増やすことや、事後のモニタリングと追跡調査などを求めることによって、さらに強化され、より有効なものにされる必要がある。と同時に、他方では、戦略的環境アセスメントが推進されなけれならない。
3. アジア・太平洋地域における国々は、湿地保全のための適切な国内法と政策を発展させ、明確な責任をもつ担当機関を指定し、湿地の保存と賢明な利用のための措置を講じなければならない。
4. 海洋および沿岸域の統合的な管理が、海事関係の業務強化のための国家的アジェンダにおける優先的な事項として取り扱われなければならない。たとえば、海洋および沿岸域の環境管理についての既存の制度的配置の見直しや、主務機関(たとえば主務担当省)の設置などが考えられる。
5. すべての沿岸域の埋立て事業は、徹底した環境影響評価の対象とされるべきである。
6. すべての海洋保護地域、自然海岸、干潟および河口域は、エコロジカルな制約を考慮に入れた手法によって保存され、復元されなければならない.
7. 水質汚染の規制、土地や土壌の安定化は、野生生物のための生息地の確保と並んで、優先的な事項であり、すべての国における自然環境の修復とかかわる環境アジェンダにおける必須事項でなければならない。新しい情報や情報技術の応用と「1日当たり最大許容負荷総量」(TMDL)の概念は、より優れた河川管理および流域管理のための手段を提供しうる。
8. 安全な飲み水への公平なアクセスを地域コミュニティに保障し、地方自治体や灌漑事業者による経済的な水使用を促進するために、直接規制と市場的手段(水価格政策など)を含めた水管理政策を発展させるための支援がなされなければならない。また、こうした政策は、陸域の生態系と水域の生態系との一体性を維持することも、その目的とされなければならない。
9. 環境災害と人体への健康被害を回避するために、すべての私的ならびに公的な産業は、労働面と環境面からみた最適な衛生・安全管理の措置を採用しなければならない。
10.有害廃棄物の移動と処分に関する国内的ならび国際的な管理が強化されなければならない。こうした管理は、有害廃棄物の確定、それらの排出目録の作成、「ゆりかごから墓場まで」の追跡戦略にもとづくものでなければならない。NGOと地域コミュニティーは、その監視役と並んで、「知る権利」にもとづく情報の提供者として、こうした管理の取り組みに寄与するであろう。また、NGOネットワークの構築はこの課題に貢献するものとなろう。
11.紛争の解決を円滑に促進したり、環境災害および労務災害による犠牲者のための法制度や保険制度、被害の補償を支援するための法的ならびに行政的な措置を未だ講じていない政府は、その確立に着手しなければならない。NGOは、被害者の支援に努め、また、とくに国家間にまたがる紛争の解決にあたっては、アジア・太平洋地域におけるNGO間のネットワークを利用することによって、こうした支援を遂行するものとする。
12.NGOは、行政当局が環境法の履行とその強化を進めるよう、より積極的に関与していかなければならない。
13.NGOは、地域コミュニティーのレベル、および、各国での正規の学校教育の制度を通して、環境教育を促進していく努力を主導していかなければならない。この目的の達成のために、環境教育センター間のネットワークを積極的に促進していくものとする。
14.現存の、あるいは新たに生起しつつある環境問題に対処していくために、公共セクターと民間セクターとの間のより一層の協力が促進されなければならない。さらに、持続可能な社会を構築していくためのパートナーシップを促進していく上で、NGOは積極的な役割を果たさなければならない。
以上、この宣言は、2002年11月3日、台湾の高雄市における「第6回アジア・太平洋NGO環境会議」(APNEC−6)の参加者によって採択された。
われわれ、APNEC−6の参加者一同は、この会議の主催した台湾海洋基金(Foundation
of Ocean Taiwan)、台湾調査基金(Taiwan Research Fund)、ウエットランド台湾(Wetlands
Taiwan)、台湾国立中山大学(National Sun Yat-sen University)、アジア環境会議(Asia-Pacific
Enviornmental Council)、日本環境会議(Japan Environmental Council)、日本ラムサールセンター(Ramsar
Center, Japan)、国際開発調査基金東アジアネットワーク(International Research
Foundation for Development - East Asia Network)による暖かいもてなしに対して、ここに感謝の意を表明したい。
われわれは、ネパールからの「第7回アジア・太平洋NGO環境会議」(APNEC−7)のホスト国としての申し出を歓迎する。