第5回アジア・太平洋NGO環境会議
アーグラ宣言
「……世界は万民の必要を満たすには十分だが、万人の貪欲を満たすには十分ではない……」
(マハトマ・ガンジー)
2000年9月22日から24日の間、インドのアーグラ(Agra)で開催された「第5回アジア・太平洋NGO環境会議」には、アジア・太平洋地域の15カ国・地域から180人が参加した。アジア太平洋地域からの参加者は、環境や開発に関わる諸問題に取り組む多くのNGOを代表する人々であり、女性グループ、草の根組織、環境に関わる法律家、教育者、学者・研究者らを含むものであった。
会議で提起された主要なテーマは、a. 地球温暖化とエネルギー政策、b. 湿地および水資源の保全、c.
環境教育と公衆の参加(public participation)、であった。南アジアにおける初の開催ということもあって、会議ではインドや南アジアの地域が全体として抱える独自の問題についても議論が交わされた。これらの地域の全てにおいて、公衆の支持を集め、さまざまな環境問題について認識し、いくつかの成功例を含めた過去の諸経験からの経験を学ぶうえでは、NGOの果たすべき役割が決定的に重要である。
会議では、アジア・太平洋地域で再び始まった経済発展や構造改革の圧力が環境への負荷をどのように高めつつあるか、また新たな問題がどのように生じつつあるかが検討された。とくに会議では、大気中の温室効果ガス(GHGs)のレベルが増加しつつあることの危険性や再生可能なグリーン・エネルギーの開発とその幅広い利用をめぐる問題に重点がおかれた。湿地および水資源の保全と維持可能な管理の必要性についても強調された。湿地および水資源の保全をめぐる今日的状況においては、水のリサイクルと再利用の可能性がきわめて重要な意義をもつものと考えられる。
また、会議においては、産業公害や固形廃棄物の管理、そして国境を越える大気汚染や海洋汚染のように、越境型の性格をもつ有害化学物質をめぐる諸問題についても議論された。水俣病やボパールの有害ガス災害の悲劇的な諸事件は、これらの問題の最たるものである。会議の参加者は、単に人間の生存が危機に晒されているのみならず、生物の多様性や遺伝子資源の損失も重大な問題になっていることを確認し、これらの問題に取り組んでいく必要性が強調された。
さらに会議の参加者は、公衆の意識を高めるうえでの環境教育の役割や、環境NGO間のネットワーク活動と草の根運動の支援において情報技術の活用が急速な広がりを見せていることなどに注目し、それらの積極的な動きを確認した。また、女性、若者、地域コミュニティなどの特定の関心事項に取り組む諸行動が包括的な発展をとげ、広がりつつあることの重要性も繰り返し提起された。
I. この会議は、アジア太平洋地域が、(1) 地球温暖化の深刻な脅威に直面しつつあること、(2) 今後、湿地や水資源の保全をめぐる問題に本格的に取り組むべきであることを認識し、と同時に、NGOの努力によって、問題認識の広がり、コミュニケーションの促進、環境教育といった点において、数多くの積極的なステップが踏み出されていることを確認しつつ、以下のことを決議する。
1. この地域におけるNGO間のネットワークがより一層強化されるべきである。
2. NGOに対し、環境状況についてのモニタリングへのより大きな参加の機会や環境情報へのよりよいアクセスが保障されるべきである。
3. 地方政府ならびに各国政府は、環境の管理において、女性、若者、地域コミュニティや地元住民たちに対し、幅広い参加と権限を与えるべきである。
4. アジア・太平洋地域の環境NGOは、オゾン層保護、気候変動、生物多様性、砂漠化、野生生物の保全や管理、有害廃棄物の越境移動といった諸問題に関する多国間環境協定(MEAs)の交渉プロセスに積極的に関与すべきである。
5. 各国政府や国際機関は、アジアの経済危機からの回復や貧困解決の過程において、環境面での改善を促進していくことが求められている。
II. アジア・太平洋地域に独自な課題という点では、この会議は、
1. ボパール災害の被害者の救済と回復のための緊急措置、医学的・疫学的研究の推進、汚染された土壌と地下水の浄化対策が早期に実施されることを強く求め、
2. 軍事基地や軍事活動にともなう毒物汚染やその他の環境問題に対し強い懸念を表明し、関係諸機関に対し適切な措置を講ずることを求め、
3. 世界遺産としてのアーグラの重要性を認識し、この美しい環境を保護するための地域コミュニティやNGO取り組みに対する支援を広げ、
4. 南アジアの諸政府に対して、人間と環境のための諸政策を採用し、発展させていくことを要請する。
III. この会議は、
1. 5年の間に、韓国のソウルに「アジア・太平洋環境会議」(AEC)の事務局を設置することを宣言し、
2. 環境調査研究センターとしての日本環境会議(JEC)による日本語版、英語版、韓国版の『アジア環境白書』発行の努力を高く評価するとともに、アジア・太平洋地域の環境状況に関する調査研究のさらなる取り組み努力の継続を奨励し、
3. インド環境協会(IES)によるインドでの環境教育センターの設立を支援し、
4. 台湾からの「第6回アジア・太平洋NGO環境会議」のホスト国としての申し出を歓迎し、
5. 会議期間中、参加者に対して温かいもてなしをしてくれたアーグラ市およびその市民に深く感謝の意を表する。
以上の宣言は、2000年9月24日、「第5回アジア・太平洋NGO環境会議」(APNEC5)の参加者によって採択された。