第32回東日本多重災害復興再生政策検討委員会全体会合

2017年2月24日(金)第1部10:30-12:20 第2部13:00-16:00
農林中金総合研究所(アグリスクエア新宿ビル8階大会議室)にて

 第32回の全体会合は、原子力市民委員会との共催で行なわれた。JEC検討委員会関係者を含めて約50名が出席した。第1部は、「これまでの原子力損害賠償の問題点と今後の課題」をテーマに、除本理史氏(大阪市立大学教授)、斎藤悠貴氏(南相馬避難解除問題弁護団・弁護士)から報告が行なわれ、その後、質疑応答と意見交換がなされた。第2部は、島薗進氏(上智大学教授)、満田夏花氏(国際環境NGO FoE Japan理事)、飛田晋秀氏(写真家)から報告が行なわれ、3氏からの報告に対する質疑応答と総合討論がなされた。最後に、寺西委員長よりJEC検討委員会のこれまでの活動と今後の取り組み方針について説明が行なわれた。

(文責・写真:藤原遥)

第1部

報告:除本理史氏(大阪市立大学教授)
「原子力損害賠償をめぐる近年の動き」


原子力損害賠償について
報告する除本氏

 除本氏からは、賠償の打ち切りと、原子力損害賠償紛争解決センター(以下、ADR)への申立てと訴訟の動向について報告があった。以下では、その概要を示す。
 2016年度は政府が定めた復興期間10年間の折り返し地点となった。集中復興期間から復興・創生期間と位置づけられ、政府の政策も変わりつつある。その中で避難指示の解除と賠償の打ち切りが進められている。
 ADRについては、2014年ごろから地域の住民が集団で申立てるADR集団申立てが注目されるようになった。ADR集団申立ては中間指針の枠を超えた地域の共通損害を訴えるという側面がある。たとえば浪江町ADR集団申立てではコミュニティ破壊による精神的損害賠償を求めている。しかし、ADR集団申立てには限界がある。浪江町をはじめとしてADR集団申立ては東京電力に和解案を拒否されている。一度和解案を認めると他のADR集団申立てにも波及することを東京電力が恐れているという指摘もある。
 訴訟については集団訴訟と個別訴訟がある。集団訴訟は、2017年3月17日の前橋地裁での判決を皮切りに、他の地方裁判所の判決が出てくる予定である。個別訴訟は、避難指示区域外の「自主避難者」の損害に関する京都地裁判決や、区域内避難者の自死事件に対する福島地裁判決がある。このうち京都地裁判決は、中間指針の枠を超えた損害賠償を認める一方で、2012年9月以降の「自主避難」の合理性や年間20ミリシーベルト以下の健康リスクを否定する内容となった。また、自死事件判決の中には、自然とふれ合い、家族や地域とのつながりの中で生活することを法的保護に値する利益と明確に示された判決がある。これは「ふるさとの喪失」に近い損失を認定する判決であり、集団訴訟にも活きると考えられる。

報告:斎藤悠貴氏(南相馬避難解除問題弁護団・弁護士)
「南相馬・避難20ミリシーベルト撤回訴訟から見えてきたこと」


南相馬・避難20ミリシーベルト撤回訴訟について
報告する斎藤氏

 斎藤氏からは、南相馬・避難20ミリシーベルト撤回訴訟の内容について報告があった。以下では、その概要を示す。
 原告は南相馬市内の特定避難勧奨地点が所在し、またはそれに近接した放射線量が高い行政区の住民である。2014年12月に特定避難勧奨地点が解除されたことに対して、住民が解除の取り消しを求める裁判を起こした。原告は206世帯808名である。南相馬市の特定避難勧奨地点に指定された全世帯の過半数が原告となっている。
 裁判の争点は、年間20ミリシーベルトの避難基準の妥当性にある。政府の避難基準を裁判で争うのは初めてであり、特定避難勧奨地点に限らず他の避難指示区域における避難基準、そして今後原子力災害が生じた場合の避難基準にも影響する。裁判で原告が主張している違法事由は、「原告らの追加被ばく線量を年間1ミリシーベルト以下とする法的義務違反」「ICRP勧告の放射線防護の原則違反」「解除の手続き違反」である。これまでの裁判では、空間線量率及び土壌汚染の測定データ、情報公開請求をした議事録等、原告らの陳述書をもとに、3つの違法事由を主張立証している。
 直近では2017年1月29日に第6回口頭弁論が行われ、次回は5月18日を予定している。

第2部

報告:島薗進氏(上智大学教授)
「放射線被曝による健康影響と精神的影響〜「過剰な放射線健康不安」を強調する見方の偏り」


放射線被曝による健康影響と精神的影響について
報告する島薗氏

 島薗氏からは、原子力市民委員会の第1部会(福島第一原発事故部会)の取り組みと、放射線被曝による健康影響と精神的影響について報告があった。以下では、その概要を示す。 
 第1部会は、福島原発事故による被害の諸相について多角的に分析し、「人間の復興」という基本理念に立った被害者への補償・支援のための政策提言をおこなう部会である。今年度は発災からの6年間を振り返り、国や東電、福島県によるこれまでの対応からもたらされる二次的被害に特に注目して調査研究している。
 精神的影響については、放射線の専門家から、放射線への過剰な不安・恐怖こそが被害を強めたという説明がなされることがある。この種の言説は、放射線の健康影響を問うことを避けるように促すという点と、原発事故による苦難について被害者自身に責任を帰すという点において、大きな問題を孕んでいる。この間、福島原発事故がもたらした精神的影響に関する研究や調査報告がなされている。それらを見るとこうした言説の異様さが明らかになる。

報告:満田夏花氏(国際環境NGO FoE Japan理事)
「帰還促進政策のもとで、追いつめられる避難者たち」



帰還促進政策の問題点について報告する満田氏

 満田氏からは、政府が復興加速化の名のもとで進めている帰還促進政策の問題点および被災者の現状、避難者受入れ自治体による独自の支援策、国の責任、について報告があった。以下では、その概要を示す。
 政府は、2015年6月に閣議決定した福島復興加速化指針改定版において、2017年3月までに帰還困難区域以外の避難指示区域を解除する方針を決めた。それを受けて、福島県は6月15日に避難指示区域外からの避難者への住宅無償提供を2017年3月末で打ち切ることを発表した。区域外避難者については、唯一の支援と言える住宅無償提供が打ち切られ、今後、生活の困窮や家族との関係悪化に陥り、孤立していくことが憂慮される。これまで避難指示が出されていた地域については、若年層は子育て等を理由に帰還は困難とし、帰還希望者の多くは高齢者となることが考えられる。
 避難者を受け入れる自治体の中には独自の支援策を採るところもあるが、それにより自治体間の格差が生じている。本来であれば、原発事故子ども・被災者生活支援法に基づき、移住先における住宅の確保に関する施策を講じる責任が国にある。避難者受入れ自治体に責任を転嫁するのではなく、国の責任で住宅無償提供を継続することが求められる。

報告:飛田晋秀氏(写真家)


原発被災地域の現状について
報告する飛田氏

 飛田氏からは、被災地域の現状について写真を用いて報告があった。飯舘村の仮置き場の状況、富岡町の町の様子、甲状腺がん患者の健康状態などについて説明され、「トモダチ作戦」に従事したアメリカ海軍の兵士らの状況についても紹介された。

今後の取り組み方針について


       
 
 

 最後に、今後のスケジュールについての確認が行なわれ、第32回の全体会合は閉会となった。