2016年9月24日(土)13:00-17:00
明治大学リバティタワー1085教室にて
第31回の全体会合は第22回「JEC福島原発事故賠償問題研究会(原賠研)」に合わせて開催された。JEC検討委員会関係者を含めて約50名が出席された。はじめに、日野行介氏(毎日新聞記者)と吉田千亜氏(フリーライター)から報告が行なわれた。その後、平川秀幸氏(大阪大学教授)、除本理史氏(大阪市立大学教授)からコメント報告がなされた。4氏からの報告を踏まえ、フロアとの間で質疑応答・意見交換がなされた。次に、原賠研医療健康班の山川幸生氏(弁護士)、尾崎寛直氏(東京経済大学准教授)より報告があり、質疑応答・意見交換がなされた。最後に、除本氏より原賠研の今後の取り組み方針について説明が行なわれた。
(文責・写真:藤原遥)
日野氏は、国が国民の「避難」を認めず政策決定していく「棄民政策」の全容について報告された。原発事故による避難は、放射能のリスクから遠く離れるための避難であり、自然災害による避難と大きく異なることを指摘された。にも関わらず、国は緊急時の基準である年間20ミリシーベルトを収束宣言後もそのまま据え置き、被災地を限定した。被災地外の自主避難者に対する唯一の支援は仮設住宅供与であった。しかし、仮設住宅供与は2017年3月末に打ち切られることになった。国は、早期避難打ち切り政策を展開し、原発事故から6年後に「原発避難」を実質終了させようとしている。このような状況に対し、日野氏は、アメリカの社会学者カイ・エリクソンの言葉を引いて、放射能災害に終わりはなく、汚染と向き合い続ける必要性があることを述べられた。
吉田氏からは、福島県が仮設住宅供与打ち切りを決定した2015年6月以降の区域外避難者の住宅問題について報告された。2つの問題点が示された。1つに、責任転換の構造である。国から福島県、福島県から避難者を受け入れる自治体に責任が転換されている。現在は福島県の決定を受けて、受け入れ自治体が慌てて区域外避難者への住宅支援の施策をつくっている状況にある。2つに、住宅提供の窓口が一本化されていないことである。都道府県営住宅、国家公務員住宅、雇用促進住宅、民間住宅はそれぞれ担当機関が異なる。住宅を探す場合は、避難者自身が各担当機関に問い合わせしなければならない。最後に、「原発避難」を実質終了させようとする国や福島県の姿勢を批判し、避難者の命綱である仮設住宅供与の継続が必然的であることを強調された。
平川氏からは、2方の報告に対するコメントとして、被害の究明と民主主義的な原発事故処理プロセス構築の必要性について話された。現行政策の問題点として、政府が被害の見えづらいところにつけ込むかたちで被害の矮小化が進められていることを指摘された。本来であれば、曖昧さ、見えにくさを解きほぐして、何が被害かを明らかにして正当な対処をしていく必要があると述べられた。最後に、原発事故処理について当事者と政府、東電等で議論する民主主義的なプロセスの構築が求められていることを強調された。
除本氏からは、2方の著書と報告に対するコメントがなされた。日野氏の著書の注目すべき点として、埼玉県の避難者数過小報告と避難終了政策の問題点、政策決定プロセスの不透明性、福島県庁の状況について明らかにしたことであると述べられた。吉田氏の著書については、制度による二次的被害、被害の不可逆性について明示されたことであると述べられた。また、両者の共通点は、避難者の一人一人の生活再建と長期的な復興を考えるうえで行政のあり方を転換する必要性を示していることであると発言された。
山川氏からは、医療健康支援に関する法制度の問題と栃木県那須塩原市における甲状腺検査に関する住民運動について報告された。健康管理調査が福島県に限定されている背景に医療健康支援に関する法制度の問題があることを指摘された。福島県外で甲状腺検査等の健康調査を受けるには個人が負担するか、あるいは各自治体が独自に財源を拠出して実施しなければならない。那須塩原市は放射能汚染が比較的高い地域であるので、住民が放射能対策や甲状腺検査の実施を行政に求める運動を展開してきた。山川氏は、こうした那須塩原市の住民運動について詳述し、現在直面している課題について述べられた。
尾崎氏からは、宇都宮大学の研究者による栃木県における取り組みと、ベラルーシ調査の概要報告がなされた。栃木県は「原発事故子ども・被災者支援法」の支援対象地域から外れる地域である。宇都宮大学の研究者は、このような地域を「低認知被災地域」と呼び、住民へのアンケート調査を実施してきた。尾崎氏は、栃木県那須塩原市の現地調査と宇都宮大学の調査研究を紹介し、被害が放置されている支援対象地域外の住民に対して、行政の責任で健康調査を実施していくことの必要性を述べられた。ベラルーシについては、全国民を対象とした健康管理調査、徹底した放射線防護教育、汚染地域への手厚い移住者支援などの概要報告がなされた。
最後に、今後のスケジュールについての確認が行なわれ、第31回の全体会合は閉会となった。