2016年7月29日(金)14:30-17:30
株式会社農林中金総合研究所大会議室にて
第29回の全体会合では、石井秀樹氏(福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任准教授)から報告が行なわれ、フロアとの間で質疑応答・意見交換がなされた。その後、行友弥氏(農林中金総合研究所特別研究員)、岡山信夫氏(農林中金総合研究所常任顧問)によるコメント報告がなされ、それらを踏まえ、寺西委員長よりJEC検討委員会の今後の取り組み方針について説明が行なわれた。
(文責・写真:石倉研)
石井氏からは、福島の復興・再生をめぐる今日的課題と今後の復興・再生に向けての取り組みに関する報告が行なわれた。石井氏が所属するうつくしまふくしま未来支援センターでは、研究をベースにした地域の復興支援活動を展開しており、石井氏自身は、これまで水稲の試験栽培や福島市全水田・果樹園放射能計測とそのマップ化、全袋検査と連動させた水稲の低減対策の検討等に関わってきたことが説明された。福島大学では、今年度から「農林中央金庫委託研究」が始まり、科学的な知見を営農指導に結びつけたり、JAや農家の抱える課題をすくいあげた上での政策立案をしたりしながら、調査研究を進めていくことが紹介された。
報告では、イネを中心としてこれまで行なわれてきた研究の現状と課題が示され、当初緊急時対応として始まった放射能汚染対策を、復興のステージが変わりつつある中、様々な知見を踏まえて持続的対策に転換をしていくことの必要性が強調された。今後の農業再生に向けては、飼料作物栽培による営農再開支援が行われており、具体的には飼料用とうもろこし栽培の普及検討を進めていることが示された。最後に「農学栄えて農業廃れる」では許されず、被災最前線にある福島大学は町医者的な役割が求められていることが述べられた。
質疑応答では、帰還後の営農再開を支える上での課題や、水稲試験栽培と行政との関係などの点について議論が行われた。
行友氏からは、福島における農業の現状と再生に向けた動きに関する報告が行われた。震災以降、太平洋沿岸では農家が半減したこと、福島県産農産物には未だ価格が回復していないものがあること、風評が根強く残っていることなどが、各種データをもとに提示された。次に、去年閣議決定された復興指針に従い、避難指示解除が進んでいるが、帰還をめぐっては多くの住民が慎重となっており、実際の帰還率も低いことが指摘された。また、米の作付けや出荷の制限緩和が進んでいるが、賠償が打ち切られた後、農業を行えるかどうかが課題となっていることが示された。最後に、農業再生に向け、各地域で取り組みが進んでおり、集落の枠を越えたつながりも動きとして現れていることが紹介された。
岡山氏からは、農林中金総合研究所がこれまで実施してきた震災復興調査の概要について報告がなされた。農林中金総合研究所では、震災以降、毎年現地調査に基づいて、被災地域の再生復興に関する課題を整理し、「復興支援プログラム」(農林中央金庫)の有効活用に活かしていること、後世に記録を残すために、デジタルアーカイブ「農林漁業協同組合の復興への取組み記録」を立ち上げて、国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)との連動を実施していることが示された。
次に、2012年10月からはJEC検討委員会に「震災復興再生政策研究」を委託し、時々の重要テーマに関する報告や、3つの検討部会による研究活動を通じて、研究の蓄積が進んでいることが説明された。また、今年度から3年間、福島大学と「福島農業の再生に資する調査・研究」を実施していることが紹介された。最後に、震災復興調査研究に関するいくつかの具体的な論点が提示された。
行友氏、岡山氏のコメント報告を受け、寺西委員長よりJEC検討委員会の今後の取り組み方針について説明が行なわれた。2016年度においても、適宜全体会合を開催し、震災復興再生政策研究を多面的に推進していくこと、全体会合と並行して各検討部会の取り組みを進めていくこと、具体的な政策提言発信を目指して取り組みを行なうこと、農林中金総合研究所や福島大学の関係者との連携・協力を深めながら取り組みを進めていくことが示された。最後に、今後のスケジュールについての確認が行なわれ、第29回の全体会合は閉会となった。