第28回東日本多重災害復興再生政策検討委員会全体会合

2016年5月22日(日)13:30-17:00
明治大学リバティタワー1096番教室にて

 第28回の全体会合は第21回「JEC福島原発事故賠償問題研究会(原賠研)」に合わせて開催された。JEC検討委員会関係者を含めて約60名が出席された。井戸謙一氏(弁護士)と吉田邦彦氏(北海道大学教授)から報告が行なわれた。その後、神戸秀彦氏(関西学院大学教授)、除本理史氏(大阪市立大学教授)からコメント報告がなされた。4氏からの報告を踏まえ、フロアとの間で質疑応答・意見交換がなされた。最後に、除本氏より原賠研の今後の取り組み方針について説明が行なわれた。

(文責・写真:藤原遥)

報告:井戸謙一氏(弁護士)
「この5年間の原発関連訴訟の到達点と課題」


5年間の原発関連訴訟の到達点と課題について
報告される井戸氏

 井戸氏からは、福島原発事故以降の5年間に司法が果たしてきた役割と問題点について報告された。原発運転(建設)差止め請求訴訟における裁判所の判断枠組みは伊方原発1号機訴訟最高裁判決(1992年10月29日)で確立されたと述べられた。伊方最高裁判決の特徴は、被告行政庁側に立証責任を課す立証責任論を示した点にあるが、その後の民事差止め訴訟では立証責任を原告住民側に負わせる不当な立証責任論を採用することになったと指摘された。福島原発事故後は8つのうち3つが勝訴判決を受け、それらの判決は従来の伊方最高裁判決の枠組みを乗り越えるものであったと評された。最後に、今後の裁判例の流れを変えるためのアプローチを提示された。

吉田邦彦氏(北海道大学教授)
「東日本大震災・福島原発事故と自主避難者の賠償問題・居住福祉課題
―近時の京都地裁判決の問題分析を中心に」


自主避難者の賠償問題と居住福祉課題について
報告される吉田氏

 吉田氏からは、自主避難者の賠償問題と居住福祉課題についてご報告いただいた。自主避難者の損害について消極的判断が目立つことを指摘された。福島被災者の自主避難行動は、被曝リスクに対する自己防衛行動であり、災害復興に携わる行政、司法は、こうした未曾有の放射能被害への対処に際して、従来の枠組みにとらわれずに考える必要性を強調された。今後の課題として「転居」依拠的な損害把握と、損害賠償額算定の試みが必要であることを示された。

神戸秀彦氏(関西学院大学教授)
「原発関連訴訟の到達点と課題(京都避難者訴訟、川内原発含む)」へのコメント
―原発差止め訴訟に限定して」


井戸氏の報告に対してコメントする神戸氏

 神戸氏からは、原発差止め訴訟を中心に井戸氏の報告に対するコメントがなされた。原発差止め訴訟を「行政判断審査方式」と「実体判断方式」に分類して分析された。福島原発事故以降は、「実体判断方式」が増加し、「行政判断審査方式」に対して拮抗し、この意義は大きいと評価された。最後に、「行政判断審査方式」の類型を説明し、各類型の論点と課題について総括された。

除本理史氏(大阪市立大学教授)
「原発『自主避難』の合理性・相当性をめぐって」


吉田氏の報告に対してコメントする除本氏

 除本氏からは、吉田氏の報告に対するコメントがなされた。京都地裁判決(2016年2月18日)は、もっぱら空間線量と情報不足を基準として「自主避難」の合理性・相当性を判断するものであると指摘された。同判決を克服するための視座として、平川秀幸氏の議論を用い、市民のリスク認知を正義や公平といった理念を含む多元的なものとして捉えることの必要性が示された。

今後の取り組み方針について

 

 4氏の報告を受けて、質疑応答と議論が交わされた。最後に、今後のスケジュールについての確認が行なわれ、第28回の全体会合は閉会となった。